2014年6月11日水曜日

変形性椎間板疾患、スシュムナーナディとヨガ

“剣はそれだけでは役に立たない。剣士の手に渡ってはじめて命が宿る”

神話、伝説、そして歴史家たちによると、人類は遥か昔「高次の自己」や「大いなる力」と、もっと強いつながりを持っていたといいます。しかし過去のある時点で、生物学的にも精神的にも私たちのコアに影響するような外傷体験を負いました。いくつかの理論は、この経験が私たちにDNAレベルの影響を与えたと説明しています。その説によると、この外傷体験は、私たちを高次の自己や大いなる力から引き離し、それ以来私たちは苦しみ、苦しみを生み出し、それを癒そうとしているということです。ヨガ、特にハタヨガは、この失われたつながりを再構築するために、この外傷体験への対応として発展したのではないかという仮説もあります。それゆえ、”つなげる”という意味を持つ”ヨガ”と名づけられたのだ、と。

Sushumna Nadi



まずは、ヨガにおける生理学的なエネルギーセンターの流れをみてみましょう。「スシュムナーナディ」は、脊髄の中心を通り、7つのチャクラもしくは微細なエネルギーセンターをつなげています。この意味を正確に理解するために、脊柱の解剖学的な構造をみてみましょう。脊柱は椎体が連なって構成されたもので、椎間板が間に入っています。椎体は靭帯によってつながれています。脊髄は脊柱管の中を通り、大後頭孔(だいこうとうこう)と呼ばれる穴をから頭蓋に入ります。

spinal cord and vertebral bodies

以上のことを心に留めて、脊柱に影響を与えるコンディション、スシュムナーナディに影響する可能性のある症状をみてみましょう。「変形性椎間板疾患」は症状、もしくは医学的な疾患です。およそ人口の90%の人にこの症状が見られます。これまで変形性椎間板疾患の主な原因は、椎間板の磨耗とされていました。しかし最近の画期的な研究によって、原因は遺伝によるものだということがわかりました。”双子の背骨の研究:変形性椎間板疾患の見方を変える”の著者はこう述べています。

”今回の研究では、「変形性椎間板疾患」は、これまで考えられていたような老化や、損傷などによる椎間板の磨耗が原因だという事実は認められませんでした。その代わりに、変形性椎間板疾患のほとんどが、遺伝的なものによって決定されることが発見されました。”*1


なるほど。つまり私たちのDNAの中に、私たちのコアにある背骨の椎間板を退化させる何かが存在するということです。そして、私たちのほとんどがこの疾患をある程度持っているのです。興味深いですね。*1,2,3,4,5,6,7,8
加えて言えば、ヨガは変形性椎間板疾患の原因にはなりません。むしろヨガは、それを回避するために発展したのかもしれません。

変形性椎間板疾患は、臨床的には腰痛に関係しているとされていますが、全く痛みを伴わない無症状の場合もあります。この遺伝的要素による要因が私たちの意識下でどう影響するのか考えてみるのは、興味深い考察です。この遺伝上の欠陥は、エネルギーレベルにも影響するのだろうか?例えば、スシュムナーナディのエネルギーの流れの障害となるのだろうか?もしそうなら、次の質問が沸いてきます。ハタヨガの練習は、この欠陥を乗り越える、もしくは無効にすることができるのだろうか?

ハタヨガはスシュムナーナディを再びつなぎ合わせ、心と体の高次の可能性を発展させるといいます。神話や伝説に見られるように、私たちは過去のある時点で高次の自己とのつながりを失い、それに伴って秘儀や奥義もまた失われました。ハタヨガが再び世の中に現れたのは最近で、現在も発展の途中です。ハタヨガは肉体的な身体を使って、私たちの微細なレベルの肉体とのつながりを活性化させます。これを精密な西洋の身体の科学知識と組み合わせることで、練習を真に洗練させることができます。ハタヨガの練習がこのように大衆に広がった現在、高次の力と「再びつながる」とは何を意味するのでしょうか?  

予想できることですが、このような目覚めのプロセスから脱線させるような要素も存在しています。それは「問題、反応、解決」として知られる操作的な方法を使うことです。  これは、意図的に不安や恐れなどの反応を喚起するような問題を作り出し、その作られた問題に対する解決策を提供するというやり方です。このシナリオは、たいていあなたを「守る」という見せかけに包まれています。このような恐れの感情を巧みに利用した方法が、ヨガではどう利用されているのか、いくつかの例をみてみましょう。  

ここでカウチポテト・・・

最初の例を挙げる前に、予備知識として椎間板ヘルニア(変形性椎間板疾患と関連していますが、別の病気です)について説明します。皆さんは、人口の40~75%の人が無症状(痛みが無い)のヘルニアを持っていることをご存知ですか?別の言い方をすると、ほとんどの人は、ヨガを始める前に、すでに何らかのレベルの椎間板ヘルニアを持っているということです(科学的な参考資料は下記を参照)。変形性椎間板疾患と同様、正しい練習方法で行えば、ヨガは椎間板ヘルニアの原因にはなりません。そして、ヘルニアがあってもヨガの練習をすることは可能です。

このことを頭の片隅に置いて、ヨガの前屈のポーズが椎間板ヘルニアを起こす可能性があることをほのめかす情報について考えてみましょう。この手の情報は、たいてい腰椎の椎間板ヘルニアのイラストから始まります。しかし、私たちのほとんどが無症状な椎間板ヘルニアを持っているということには触れていません。そして、ヨガの前屈がヘルニアを起こすという証拠も述べられていません。(私が以前行った、”ヨガによる怪我で救急治療室を訪れた患者のデータ”の予備分析では、ヨガが原因で起こった椎間板ヘルニアは一件もありませんでした。)。しかしながら、このような情報を流している人たちは、前屈は椎間板を傷つけると示唆することで、人々が不安になることを知っているのです。さて、ここまでは順調です:問題が提起され、反応(不安)が起こります。残すは解決方法です。よく知られる解決方法は、ボルスターの上に膝を曲げて置き、重ねたブランケットの上に座って、身体の重さで前に倒れこむように前屈するやり方です。これは椅子やソファに腰掛けるための準備にはもってこいですが、ヨガの前屈とは言えません。さらに、腰を丸めて前に倒れこむ姿勢は、腰椎の椎間板を圧迫し、傷つける可能性があることがわかっています。 *15,16,17

このような方法での練習や指導は、「恐れ-回避」の行動パターンを作り出し、このやり方でポーズを行う習慣が身についてしまいます。恐れに基づいた「問題」の「解決」は、このようにして練習生から、心理的にも肉体的にも主導権を奪う悪循環を生み出します。前屈で椎間板が損傷するという説明のイラストは、これまで何度もメディアに掲載されました(以前のブログ”胸腰筋膜部”で説明したような、背骨を守りながら有効にポーズを行う方法は使わないように、という説明付きで)。

まとめてみましょう。「問題、反応、解決」の要素は揃いましたが、その全てが、ヨガは椎間板ヘルニアを起こすという間違った前提に基づいています。これは、潜在的な解決方法が問題を引き起こすことを示唆する、偽情報の良く知られたテクニックです。

このような偽情報は、ヨガ講師の力も奪います。講師はもちろん生徒に椎間板ヘルニアを起こして欲しくありません。そのため指導方法も「恐れ-回避」のパターンに陥ります。講師にとってさらに迷惑なことは、このような記事によって、ヨガをする以前からすでにあったヘルニアを、講師のせいにするという道筋が作られてしまうことです。

怪我のリスクをほのめかすような受動的攻撃行動はまた、本来は有用で役に立つポーズに、板ばさみの状況を生み出します。このようなテクニックは怪我の恐れを巧みに操作するので、解決策はポーズを避けることになります

「権威を引き合いに出す」ことも偽情報のプロセスに含まれます。これは以前のブログ”発達した四頭筋と膝蓋骨のミスアライメントを持つ人は、関節炎の進行が早い“に見られるように、結論を医学雑誌に偽って帰属するような方法です。また、偽情報の似たようなテクニックとして、具体的な証拠を提供せずに(証拠はたいてい存在しません)、何かを”確かな証拠に基づいた事実“のように特徴づけることがあります。「権威を引き合いに出す」別の方法は、”専門家“の意見を紹介することです。しかしよく調べてみると、このような専門家は本物ではないことがしばしばあります。例えば、欺瞞が明るみに出た時に行われる”会議“や”委員会“に、このような”専門家“が登場することがあります。”尊大な態度“の人が集まり、限られた人にコントロールされたこのようなイベントは、あらかじめ用意された”合意“に至るように計画されています。私たちは、政府やメディアがこうした方法を使うのを、これまで何度も目にしてきました。

恐れと不安は人間の感情の反応の中で最も強いものです。それらの感情は子供時代に形成され、たやすく操作されてしまいます。このような巧みな操作は、私が今回お話しているような状況にもあてはまります。不安を掻き立てる問題を提起して、ヨガと結び付け、練習の主導権を奪います。このような操作をする人々がヨガの練習のスタンダードを作るべきでしょうか?

皆さん、私たちはとてもわくわくするような時代に生きています!変形性椎間板疾患が遺伝的なものだというような科学的な発見が、私たちの過去、現在、そして未来についての新しい理解を明らかにするかもしれません。この続きはまた・・・

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*参考文献
1) Battie MC, Videman T, Kaprio J, Gibbons LE, Gill K, Manninen H, Saarela J, Peltonen L. "The Twin Spine Study: Contributions to a changing view of disc degeneration." The Spine Journal. Jan-Feb 2009; 9(1): 47-59.

2) Livshits G, Popham M, Malkin I, Sambrook PN, Macgregor AJ, Spector T, Williams FM. "Lumbar disc degeneration and genetic factors are the main risk factors for low back pain in women: The UK Twin Spine Study." Annals of Rheumatic Diseases. Oct 2011; 70(10): 1740-5. Epub 2011 Jun.

3) Hancock MJ, Battie MC, Videman T, Gibbons L. "The role of back injury or trauma in lumbar disc degeneration: an exposure-discordant twin study." Spine (1976). Oct 2010; 35(21): 1925-9.

4) Videman T, Gibbons LE, Kaprio J, Battié MC. "Challenging the cumulative injury model: Positive effects of greater body mass on disc degeneration." The Spine Journal. Jan 2010; 10(1): 26-31. Epub 2009 Nov.

5) Battié MC, Videman T, Parent E. "Lumbar disc degeneration: Epidemiology and genetic influences." Spine (1976). Dec 2004; 29(23): 2679-90.

6) Battié MC, Videman T. "Lumbar disc degeneration: epidemiology and genetics." The Journal of Bone and Joint Surgery. Apr 2006; 88 Suppl 2: 3-9.

7) Battié MC, Videman T, Levalahti E, Gill K, Kaprio J. "Heritability of low back pain and the role of disc degeneration." Pain. Oct 2007; 131(3): 272-80. Epub 2007 Mar.

8) Paajanen H, Erkintalo M, Kuusela T, Dahlstrom S, Kormano M. "Magnetic resonance study of disc degeneration in young low-back pain patients." Spine (1976). Sep 1989; 14(9): 982-5.

9) Boos N, Rieder R, Schade V, Spratt KF, Semmer N, Aebi M. "1995 Volvo Award in clinical sciences. The diagnostic accuracy of magnetic resonance imaging, work perception, and psychosocial factors in identifying symptomatic disc herniations." Spine (1976). Dec 1995; 20(24): 2613-25.

10) Jensen MC, Brant Zawadzki MN, Obuchowski N, Modic MT, Malkasian D, Ross JS. "Magnetic resonance imaging of the lumbar spine in people without back pain." New England Journal of Medicine. Jul 1994; 331(2): 69-73.

11) Boden SD, Davis DO, Dina TS, Patronas NJ, Wiesel SW. "Abnormal magnetic-resonance scans of the lumbar spine in asymptomatic subjects: A prospective investigation." The Journal of Bone and Joint Surgery. Mar 1990; 72(3): 403-8.

12) Powell MC, Wilson M, Szypryt P, Symonds EM, Worthington BS. "Prevalence of lumbar disc degeneration observed by magnetic resonance in symptomless women." Lancet. Dec 1986; 2(8520): 1366-7.

13) Masui T, Yukawa Y, Nakamura S, Kajino G, Matsubara Y, Kato F, Ishiguro N. "Natural history of patients with lumbar disc herniation observed by magnetic resonance imaging for minimum seven years." Journal of Spinal Disorders and Techniques. Apr 2005; 18(2):121-6.

14) Jarvik JJ, Hollingworth W, Heagerty P, Haynor DR, Deyo RA. "The Longitudinal Assessment of Imaging and Disability of the Back (LAIDBack) Study: baseline data." Spine (1976). May 2001; 26(10): 1158-66.

15) Watanabe S, Kobara K, Ishida H, Eguchi A. "Influence of trunk muscle co-contraction on spinal curvature during sitting cross-legged." Electromyography and Clinical Neurophysiology. Apr-Jun 2010; 50(3-4): 187-92.

16) Watanabe S, Eguchi A, Kobara K, Ishida H. "Influence of trunk muscle co-contraction on spinal curvature during sitting for desk work." Electromyography and Clinical Neurophysiology. Sep 2007; 47(6): 273-8.

17) Claus AP, Hides JA, Moseley GL, Hodges PW. "Different ways to balance the spine: Subtle changes in sagittal spinal curves affect regional muscle activity." Spine (1976). Mar 2009; 34(6): E208-14.

18) Kell RT, Risi Ad, Barden Jm. "The response of persons with chronic nonspecific low back pain to three different volumes of periodized musculoskeletal rehabilitation." Journal of Strength and Conditioning Research. Apr 2011; 25(4):1052-64.

2014年6月8日日曜日

戦士のポーズⅠにおける骨盤の使い方の改善


ヨガはしばしばミリ単位の世界でその効果を発揮します。比較的小さなアジャストメントが、最も重要な部位を開き、大事なエネルギーのシフトが起こるのです。今回のブログでは、ヨガのアサナ、戦士のポーズⅠ(ヴィーラバッドラーサナⅠ)における骨盤の使い方を改善するためのポイントについてお話しし、このアジャストメントについての生体力学的考察で締めくくりましょう。

ポイントは



戦士のポーズⅠでは、後ろ足を床に踏み込み、これを正中線に向かって引き込む意識をします(内転)。骨盤が前方を向いて前脚と「スクウェア」になるのが感じられるでしょう。図1とがこの動きとそれが骨盤にもたらす効果を解説しています。



図1:足をマットに踏み込み、正中線に向かって引き込もうとする。これによって大内転筋を使う。

このポイントにおける生体力学


戦士のポーズⅠにおいて、後脚は伸展します。この動きにおける主動筋は大殿筋です。腰の伸展における協働筋の一つは大内転筋です。正中線に向かって足を引き込もうとする動きでは、この筋肉を使います。足はマットをとらえ、実際には動かしませんが、大内転筋を収縮する力が、図に示されるように、大腿骨と骨盤の角度を狭めます。この結果として、骨盤が(足を動かさずに)前方に向くのです。さらに、より効果的に腰を伸展させる事ができます。これら全てを行う事で、骨盤の前面を効果的に開く事ができ、腸腰筋を含む股関節屈筋群をストレッチします(図3)。





2:足を正中線に向かって引き込もうとする事によって大内転筋を使う。足はマットに固定するが、収縮する力が骨盤の向きを変える。




図3:後脚側の腰の屈筋群が伸びているところ


このアジャストメントは、足の位置をきちんと決めてから行います。そのやり方は、ヨガにおける足とのつながりについてお話しした以前のブログに説明があります。詳細を読むにはこちらをクリックして下さい。これらのポイントには、以前戦士のポーズⅡで説明した、前脚のための腰の安定筋のコ・アクティベーションを組み合わせる事ができます(詳細を読むにはこちらをクリック)。最後に、こうしたポイントを用いる時は、動きに「ゆっくりと入る」ようにしましょう。筋肉を使って徐々に骨盤の向きを変え、ポーズから抜ける時にも徐々に解放します。


生体力学とヨガについて役に立つポイントは他にも沢山あります。「図解YOGAアナトミー」の「筋骨格編」と「アーサナ編」を是非ご覧下さい。「ヨガ・マット・コンパニオン」シリーズでは、これらのポイントを全てのカテゴリーのポーズに応用するための段階的なガイドラインについて説明しています。詳細はこちらから。


ナマステ

レイとクリスより